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暗転幕、上がる | |
| ーーーー舞台、明るくなると煙草屋の場面、婆さん、住職。隣の土地は更地になっている。 | ||
| 婆さん | 「お住っさん、そういうわけで、子供のないわたしに急に可愛いい孫ができましてなあ」 | |
| 住職 | 「そらしかし不思議な縁というか、えらいことでしたなあ。一月の間に、色んなことがあったんですなあ。 それにしてもずっとお元気そうでなによりです」 |
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| 婆さん | 「血圧のことなんか考えてるひま、おませんでしたわ。ハハハハッ(住職も一緒に笑う) まあ、こないに動けるゆうことは、ありがたいことですわ」 |
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| 住職 | 「圭子さんでしたかねえ。その娘さんのことで、気い張ってはるのがいいんでしょうね。 ところで圭子さんは?」 |
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| 婆さん | 「病院へ検診に行ってますねん。もうそろそろ帰る頃やと思いますけど」 | |
| ーーーー一組の初老の男女が店先を覗いては行きつ戻りつしている。入ろうかどうか迷っている様子。 決心したように入ってくる。 |
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| 圭子の父 | 「ごめん下さい」後ろで、妻がうつむいている。 | |
| 婆さん | 「へい、おこしやす」店へ出ていって「なんにしまひょ」ーーーー二人の姿を見てハッとした様子。 | |
| 父 | 「圭子の父親でございます。先日は電話で失礼いたしました。この度は、圭子が大変ご迷惑をかけまして・・・・。 すぐにも迎えに上がらねばなりませんのに、お恥ずかしい次第で、これの身体具合も悪かったものですから、 おっしゃる通りにさせていただいたようなわけでして、今日はいよいよこんなことしてたら いかん。早くお目にかかって、お礼も申し上げ、圭子の気持ちも聞きたいと思いまして、 参ったようなわけでございます」 |
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| ーーーー婆さん、少し無愛想に | ||
| 婆さん | 「そうでっか、それはそれは、まあ、むさ苦しいとこですけど、お上がりやす」 | |
| 父 | 「はっ、それでは、ちょっと失礼いたします」 | |
| ーーーー三人、部屋に戻ってくる。住職、そわそわして、 | ||
| 住職 | 「あの、それじゃ、わたしはこれで失礼します」 | |
| ーーーー婆さん、真剣な顔で | ||
| 婆さん | 「お住っさん、お急ぎですやろけど、お願いです。もうちょっとおって下さい。なっ、頼んます」 | |
| 住職 | 「そやけど・・・・ちょっと・・・・」 | |
| 婆さん | 「いえ、わたい、今日は何を言うやわかりません。お住っさんにも聞いとってもらいたいんです」 | |
| 住職 | 「そうですか」 | |
| ーーーー住職、あきらめて、座り直す。ちょっときまり悪そうに両親に会釈する。 | ||
| 母 | 「あの・・・・・圭子は・・・・・」 | |
| 婆さん | 「ああ、ちょっと出かけてますけど、じきに帰って来ますやろ」 | |
| 母 | 「身体のほうはどんな具合でしょうか」 | |
| 婆さん | 「はあ、元気だっせ」 | |
| ーーーー住職、婆さんがつっけんどんなので、間でおろおろしている。圭子、帰って来る。 | ||
| 圭子 | 「ただいま」 | |
| 父 | 「圭子!」母「圭ちゃん!」 | |
| ーーーー圭子、一瞬、立ちすくんで、後ずさりすると背を向ける。 | ||
| 父 | 「元気そうじゃないか。良かった。良かった」 | |
| ーーーー婆さん、不機嫌な顔になる。小声で | ||
| 婆さん | 「何もええことあるかいな」 | |
| 母 | 「圭ちゃん(涙声)あなた、どうして帰って来てくれないの・・・・・随分心配したのよ、圭ちゃん・・・・・」 | |
| ーーーー父、母を制して | ||
| 父 | 「今日は迎えに来たんだよ。一緒に帰ってくれるね。いいだろ」 | |
| ーーーー婆さん、いらいらして、たまりかね | ||
| 婆さん | 「なにを猫なで声出してはりますのんか。おやだっしゃろ。娘だっしゃろ。 もっと普通にポンポーンと言えまへんのか。ああ〜、気色の悪う、さぶいぼが出ますわ」 婆さんがカッカッしているのを見て |
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| 住職 | 「血圧、血圧」婆さん、住職を睨んで、 | |
| 婆さん | 「そらわかってます。そんなもんどうでもよろし」 | |
| ーーーー住職、首をすくめる。 | ||
| 婆さん | 「圭子はん、お父さん、お母さんが迎えに来はったんや。いっしょに帰りなはるか」 | |
| 圭子 | 「いやです。ここにおいてください。ずっとここにお願いです」 | |
| ーーーー両親、がっくりする。 | ||
| 父 | 「だけど、ここは他所さんのお宅なんだから、いつまでもお世話になってはご迷惑じゃないか」 | |
| 婆さん | 「うちとこやったら、別にいつまでおってもろたかてけっこうだっせ」 | |
| 住職 | 「中村さん。そんなこというたら、えらい話がややこしいなるのと違いますか」 | |
| 婆さん | 「よろしいねん。こうなってみて、わての気持ちがはっきりしました。圭子さんにはここにおってもらいます。 それにしてもあんさんがた、ちょっとおかしいんとちがいますか」 |
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| ーーーー父、ややあって、母と顔を見合わせ、意を決したように思い詰めた顔で | ||
| 父 | 「実は私たちは子無しだったんです。いろいろと検査してもらったり、努力したんですが・・・・・・ どうしても子供が欲しくて、施設にいたこの子を養女に 貰い子したんです。どこかに遠慮があるのは、やっぱり親に成り切れていないんでしょうかねえ・・・・」 |
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| ーーーー婆さん、愕然として | ||
| 婆さん | 「そうだしたんか。うわあ〜、えらいこと言うたがな。圭子さんから何も聞いてへんもんやから、 えらいこというてしもて、堪忍しとくれやっしゃあ。 あ〜、えらいこというてしもた・・・・なんにも知らんとからに。お住っさん、どないしまひょ〜」 |
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| 住職 | 「まあ、まあ、悪気で・・・・・やっぱり言うてしもたんですわなあ〜」 | |
| ーーーー婆さん、天を仰いで長嘆息 | ||
| 母 | 「圭ちゃん、あんた、なんで急に荒れてしまうようになったん。お母さん、未だにわからへんの。 あんた見てると、自分で自分を苦しめているようで・・・・・ とっても辛いの。お願いやから教えてちょうだい・・・・・なにがあったん・・・・・」 |
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| 父 | 「今はよしなさい・・・」 | |
| 母 | 「だって・・・・」 | |
| ーーーー圭子、店の柱にもたれて、うつむいていたが、顔を起こすと、眼を閉じたまま、 上方をむいて、絶望的な調子で |
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| 圭子 | 「うちは・・・・うちは・・・・・コインロッカーに捨てられとったんやろ」 | |
| ーーーー一同、驚く。母親、悲鳴のような声で | ||
| 母 | 「あんた、それを誰に・・・・・」 | |
| ーーーーヤクザ、数人入ってくる。圭子、驚いて、両親のそばにかけよる。両親、抱きしめる。 | ||
| ヤクザA | 「これはこれは、お取り込み中、はばかりさん。コインロッカーがどないぞしたんかい・・・・ 中村はん、今日はええ返事、聞かしてもらうまで、ここ動かへんで。 若いもんは気が短いよって、何するやわからん。それをわしが押さえて、まあ、穏便に話をつけたろいうとんねん。どないだ、中村はん」 |
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| 婆さん | 「ああ・・・・・今、えらいこと聞いて、ショック受けてんのに、またぞろあんたらかいな。 今、それどころやない、帰ってんか」 |
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| ヤクザC | 「なにお!なめとったら承知せんぞ!」 | |
| 婆さん | 「あんた、それしか言うこと知りませんのか」 | |
| ーーーーヤクザC、いきり立って「クーッ」、B、押さえる。 | ||
| 父 | 「どういう事情か知りませんが穏やかじゃありませんなあ」 | |
| ーーーーヤクザA、なにかを感じたように黙っている。 | ||
| ヤクザB | 「どこのどいつや。知らんもんは大人しゅうすっこんどったらええんじゃ。 怪我せんうちに帰った方が身のためやど・・・」 |
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| ーーーー婆さん、住職、お父さんを止めようとするが、お父さん、落ち着いて、 | ||
| 父 | 「どうも、これは一つ、事情を聞かせてもらうことになりそうですなあ」 | |
| ヤクザC | 「なにを!なめ・・・・言いかけて、あわてて口をつぐむ。」 | |
| ヤクザA | 「なにもんじゃい」 | |
| 父 | 「私ですか?わたしはこういうもんです」警察手帳を出す。 | |
| ーーーーヤクザたち、ギョッとして後ずさる。 | ||
| 父 | 「なんなら、署の方でゆっくり事情を聞かせてもらいましょうか」 | |
| ヤクザA | 「へっへっへっへっ、旦那、ご冗談を・・・・・あっしたちは、ただ商談で伺ってるだけでして・・・・ なあ、婆さん」 婆さん、プイッとそっぽ向く。 |
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| 父 | 「それじゃ、今日のところは穏便にお引き取り願おうか」 | |
| ヤクザA | 「クッ、仕方がねえ。おうっ・・」 | |
| ーーーーA、BCを促す。ヤクザたち引き上げる。 | ||
| ーーーー住職、婆さんヘナヘナとなる。母親、圭子と抱き合っている。父、歩み寄って、 | ||
| 父 | 「苦しかったろう。可哀想に、誰にも言えることじゃない。一人で苦しんでいたんだね・・・・ 私たちも心のどこかでおびえていたんだ。これでいい、 なんだか、胸のうちのもやもやがすっきり消えたようだ。・・・・・ありがたい・・・・・ 中村さん、誠に厚かましいお願いですが、圭子の言うとおりに してやりたいと思います。ご厚意に甘えて、今しばらく置いてやって下さいませんか」 |
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| 婆さん | 「せっかくですけどな。きっぱりとお断りします」 | |
| ーーーー住職、驚いて、 | ||
| 住職 | 「ええっ、さっきは居たいだけ居なはれ言うてましたがな」 | |
| 婆さん | 「気が変わったんだす」 | |
| 住職 | 「そんな」 | |
| 父 | 「そうですか」 | |
| 婆さん | 「そんなぜいたくなわがままな娘やとは知らなんだ。さっさと連れて帰っとくなはれ」 | |
| ーーーー圭子、婆さんに歩み寄る。 | ||
| 圭子 | 「おばあちゃん、わたし・・・・」 | |
| ーーーー婆さん、圭子の頬を打つ。圭子、崩折れる。母、かけよってかばう。 | ||
| 母 | 「なにをなさるんです」父も歩み寄る。 | |
| ーーーー婆さん、眼顔で父に語りかけ、立ち上がった圭子と母と父親の三人を押し出すようにする。 声を振り絞って、 |
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| 婆さん | 「さっさと帰っとくなはれ・・・・・」 | |
| ーーーー父と母、婆さんの心がわかり、拝むように圭子を抱きかかえるようにして、出口に向かう。 | ||
| ーーーー信一、殴られて、鼻血、傷だらけの姿で、よろめきながら、走り込んでくる。 倒れ込みながら・・・ |
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| 信一 | 「逃げろ、みんな逃げろ、奥へ逃げるんや〜!!」 | |
| 圭子 | 「信ちゃん!」 | |
| 信一 | 「勝治がダンプで突っ込んで来よる〜、表は間に合わへん、奥へ逃げてくれ〜!」 | |
| 婆さん | 「ええ〜、そんな、もお〜、無茶苦茶でござりまするがな」 | |
| 住職 | 「ああ〜、わたしのスクーターが表に〜」 | |
| 信一 | 「わあ〜、来よった〜〜〜」 | |
| ーーーーダンプ、突っ込む。轟音と共に暗転(暗転幕を下ろす) | ||
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