劇団パンタカ第9回公演:平成2年4月8日(日):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『私本西遊記』、一幕四場
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| 第一場 緞帳前 | ・ |
| 玄奘 | ああ、いやだいやだ、この度ばかりは私もほとほと悟空の乱暴さかげんに愛想がつきました |
| 八戒 | そうでしょう、そうでしょう。私もあのエテ公が威張りくさるのにははなもちならなかったんです。なあに心配なさることはありません。もう、あのヒンドゥー・クシュの山並みを越えれば天竺だそうです。後はこの猪八戒さまと沙悟浄がいれば大丈夫です。なあ、沙悟浄 |
| 悟浄 | へえ、へえ、まあね。悟空の兄貴も今度ばかりはやりすぎでしたよ。なにもああまでぶちこわすことはなかったんです。 いくらもののはずみとはいえ、妖怪だって妻も在れば子供も在るんですからねえ |
| 玄奘 | そうです。南無本師釈迦牟尼仏、ナムホンシシャカムニブツ・・・・・いやしくも仏に仕える身でありながら平気で殺生を犯すとは、あ〜いやはや・・・・とてもあのようなものを供のうて、お釈迦様のところへ参るわけにはいきません |
| 八戒 | まあ、お師匠様、いいじゃありませんか。むくれてどっかへ行っちまった悟空のことなんか打っちゃっておきましょう |
| 悟浄 | それよりも、はや陽も西に暮れかかりました。今夜の宿を早いとこ決めましょうや。無理に先を急いだときは、これまでろくなことがありませんでしたからねえ |
| ーー八戒、悟浄の脇腹をつついて | おう。沙悟浄、こうなりゃ、おれさまが名実ともに一番弟子だからよ、さっそく俺様の指示に従って、夜露をしのぐ場所を探して、食い物をたっぷり手に入れてきなよ |
| 悟浄 | なにをいう、年なら俺の方が上なんだ。年でいこうじゃないか、年で |
| 八戒 | なんだと・・・・ |
| 玄奘 | やれやれ・・・・この調子ではいったい、いつ天竺へ辿り着けることやら。小龍や、頼みますよ。今年はおまえの年なんだから、お前だけでもしっかり私を天竺へ運んでくださいよ |
| ・ | ーー馬の首筋を撫でる。小龍、ヒヒ〜ンと元気にいななく。上手に退場 |
| 第二場 | ・ |
| ・ | ーータグの一団、上手に集まって打ち合わせをしている」。上手から手下が一人、注進にかけつける。 |
| 手下A | お頭、おっつけ、例の坊主が供の二人とやってきますぜ |
| 頭領 | よ〜し、野郎ども、いいな手筈どうりにやるんだぜ |
| 一同 | おう! |
| 副頭領 | しかし、頭領、おかしいじゃねえか |
| 頭領 | どうした |
| 副頭領 | はじめの情報じゃ、供は化け物みたいのが三人じゃなかったんですかい |
| 頭領 | おう、そうだ、おめえの言うとおりだ。やい |
| 手下A | へい、それがお頭、大笑いでさあ。あの癇性病みの坊主、一番つええ猿の化け物が、勢い余って妖怪の女、子供まで殺しちまったて〜んでカンカンに青筋たてて怒り出しましてね。「態度に反省の色が見えない」とかなんとか言っちゃって、破門しちまったんですよ |
| 頭領 | なんだ、一番つええのがいないんじゃ、こっちの思うつぼじゃねえか |
| 一同 | いや、まったく、わっはっはっは・・・・・ |
| 副頭領 | しいっ、だが油断はなりませんぜ。化け物を三人も手なずけて供にしているからには、そのひょろひょろ坊主はきっと不思議な術を心得ているに違いない |
| 頭領 | な〜に、たとえどんな術を心得ているにしても、タグの早業にかかればイチコロだ。供の二人は素早く締めて埋めてしまうんだ。坊主は殺すわけにはいかねえ。マハラジャのたってのご注文だ。生かして捕らえ、城へ届ければ黄金をたっぷりはずむとの気前のいい話だ |
| 手下B | 青坊主一人がどうしてそんなに値打ちがあるんです? |
| 頭領 | さあて、その訳はおれにも解せねえ |