劇団パンタカ第4回公演:昭和60年4月9日:神戸文化大ホール
【釈尊降誕祝典劇】
『王舎城物語』ーー本当のしあわせを求めてーー、一幕十場
配役:釈尊・・・林 市郎、ビンビサーラ・・・浅野正運、イダイケ・・・中島由子、アジャセ・・・立花正則、王妃・・・坂本弘子
デーヴァダッタ・・・中野天道、ジーヴァカ・・・藤本慈晃、月光大臣・・・佐々木晟夫、大臣A・・・湯浅大雄、牢番・・・岸 秀介
占者・・・明石和成、刺客・・・浅野孝次、仙人(声)、衛兵たち、インド舞踊・・・西村英子、大谷能子、合唱・・・浜田諭稔、
ナレーター・・・矢坂誠徳ディレクター・・・甲斐宗寿、衣装・・・西村英子、脚本・演出・・・冨士玄峰、舞台美術・・・川下秀一

衛兵 「牢番がまいっております」
アジャセ 「よし、これへ通せ」
衛兵 「牢番、こちらへ参れ」
牢番 「へっ、へっ、へっ、へっ、これはこれは、大王様、なにかお気に障りましたでしょうか?生まれて初めてでごぜえます。こんなにお城の奥に入れて頂きましたのは、まったくもって眼がつぶれるというくらいのもんでごぜえます。なにとぞ命だけはお助けを、へっ、へっ、へっ、へっ」
デーヴァダッタ 「無駄口を叩くな。その眼がつぶれる前に、この二十日間、牢の中であったことを残らず話せ。話せば無事にもとの仕事に戻してやる。さもなければ・・・・・・」
牢番 「へっ、へっ、へっ、なにぶん、近頃、とんと眼がうすくなるやら、耳が遠くなるやらでごぜえまして・・・・・へっ、へっ、へっ、へっ」
デーヴァダッタ 「よいよい、お前の言いたいことは解った。それっ」
ーーー金貨を投げてやる。牢番、あわてて拾い上げ、がっかりしたように
牢番 「やれやれ、おきさきさまはもっとはずんで下さったがなあ・・・・へっ、へっ、へっ、へっ」
デーヴァダッタ 「なに、おきさきさまだと、ええい、抜け目のない奴だ・・・・・・・それ・・・・・・」
ーーーさらに金を投げる。牢番は拾い上げる
デーヴァダッタ 「欲もそれまでにしろ。さっさとしゃべらぬと、その金も死に金になるぞ」
牢番 「ぶるぶるぶる、とんでもない。命だけはお助けを。これでも長年、実直に真っ暗な牢屋の番人を勤め上げてきましたので、せめてまっとうな死に方がしてえと思っております。ただ今申し上げます。ええい、どうせ分かることだ。申し上げるでございますよ。誰が王様になろうとおれたちにゃかかわりのねえことだ。へっ、へっ、へっ、へっ」
ーーーアジャセ、いらだって
アジャセ 「ええい、早く申せというに」
ーーー牢番、首をすくめて 「へえ、へえ・・・・」
デーヴァダッタ 「おきさきがどうとか申したな・・・・・・」
牢番 「へえ、おきさきさまには日に一度、必ず牢においでになります。おあわせするわけにはいけませんと申上げたのですが、国王を見舞いに行くのじゃと言われまして・・・・・・」
デーヴァダッタ 「なんとしたことだ」
牢番 「ただ、お慰めするのだと申されまして」
デーヴァダッタ 「ふ〜む・・・・・何も持たずにか」
牢番 「へえ、手ぶらでごぜえます」
デーヴァダッタ 「さては身体に何か塗ったな・・・・でなければ二十日も持つ訳がない」
牢番 「そういえば、先ほども参られましたが、香ばしい匂いと甘い蜜の香りがいたしておりました」
デーヴァダッタ 「さてこそ」
アジャセ 「なんということだ」
牢番 「え〜、ついでに申し上げますと、あの方はいつも石牢の窓から伸び上がるようにして、お釈迦様がおいでになる鷲の峰をごらんになって、拝んでおられます。ときおり、お釈迦さまのお弟子の目蓮様やフルナ様がおいでになりまして、なにやらありがたいお話を大王様になされます。大王様はただ、黙って合掌して聞いておられますよ。や〜れやれ」
デーヴァダッタ 「なにっ、ゴータマの弟子どもが来ただと・・・・・・おのれ・・・・・・」
アジャセ 「う〜ん。あの賊をかばう以上、母も賊であるぞ。坊主らも同罪だ。・・・・・許せん!ものども、付いて参れ!」

     暗転

                               次へ