劇団パンタカ第4回公演:昭和60年4月9日:神戸文化大ホール
【釈尊降誕祝典劇】
『王舎城物語』ーー本当のしあわせを求めてーー、一幕十場
配役:釈尊・・・林 市郎、ビンビサーラ・・・浅野正運、イダイケ・・・中島由子、アジャセ・・・立花正則、王妃・・・坂本弘子
デーヴァダッタ・・・中野天道、ジーヴァカ・・・藤本慈晃、月光大臣・・・佐々木晟夫、大臣A・・・湯浅大雄、牢番・・・岸 秀介
占者・・・明石和成、刺客・・・浅野孝次、仙人(声)、衛兵たち、インド舞踊・・・西村英子、大谷能子、合唱・・・浜田諭稔、
ナレーター・・・矢坂誠徳ディレクター・・・甲斐宗寿、衣装・・・西村英子、脚本・演出・・・冨士玄峰、舞台美術・・・川下秀一
第五場
(NA)恐ろしい過去の秘密をデーヴァダッタから知らされ、また、そそのかされたアジャセ太子は反逆を企て、遂に父王を捕らえ、厳重な七重の石の牢獄に幽閉いたしました。しかも水や食べ物を与えずに飢え死にさせようとしたのです。 | ・ |
ーーーサス・スポットが舞台中央の空の玉座を照らし出し、ややあって消える。再び、舞台全体が明るくなると、玉座にアジャセ、横にデーヴァダッタ。廷臣たち居並ぶ。アジャセ王、暗い表情。 | ・ |
アジャセ | 「玉座というものは孤独で冷え冷えとしたものだなあ・・・・・」 |
ーーー大臣の一人、王の機嫌をうかがうように、進み出る。 | ・ |
大臣A | 「マガダを治められます偉大なる大王様。西の方より珍しい踊りの一団が城下に参っております。なかなかの名手がそろっておるようでございますので大王様にお目にかけようと召し入れましてございます。いかがでございましょうや?」 |
ーーーアジャセ、当惑したようにデーヴァを見る | ・ |
デーヴァダッタ | 「なにを浮わついたことを・・・・・」 |
月光大臣 | 「大王さま、それはよい趣向でございます。音楽や踊りは人の気を晴れやかにするもの、少しは楽しい空気を城中にお入れになりませんと、お身体にさわりますぞ」 |
大臣A | 「まあ、ものはためし、ごらんになられませ」 |
ーーー大臣が手を拍つ、踊り子たち入ってきて踊り回る。その中の一人、やがて玉座に近づくと短剣を抜き王に跳びかかる。一瞬早くデーヴァダッタが杖を差し出して防ぐ。衛兵たち男に跳びかかる。取り押さえた刺客を引き立てる。 | 刺客叫ぶ「殺せ、ええ〜い、殺せ」 |
ーーーアジャセ、顔を引きつらせ | ・ |
アジャセ | 「おのれ、にっくき奴。マガダ国王の命を狙うとは身の程を知らぬ奴。ただちに首を刎ねてくれる。そこへひきすえよ」 |
デーヴァダッタ | 「待たれよ、首を刎ねる前に調べねばなりませぬ。いかに口が堅くとも割らせるのです。おそらくはコーサラ国が送り込んだ刺客でありましょうが、今一つ誰が手引きしたかが問題です。獅子身中の虫は早く見つけて、取り除くことです。のお、大臣殿」 |
ーーー刺客、「殺せ、早く殺せ」と叫びながら、引き立てられていく。大臣A、ぶるぶる震え出す。月光大臣、憮然たる表情。 | ・ |
デーヴァダッタ | 「大王様、いましばらくお人ばらいを」 |
アジャセ | 「皆のもの、下がるが良い。衛兵は誰も入れてはならぬぞ」 |
ーーー廷臣たち下がる | ・ |
デ−ヴァダッタ | 「危ないところでございました。あのときはあのようにコーサラの刺客と思わせるように申し上げましたが、先王ビンビサーラの差し金かも知れませぬ・・・・・」 |
アジャセ | 「なに、父上!いや、あの仇の差し金というか」 |
デーヴァダッタ | 「城内にはまだまだ先王の息のかかったものがおります。油断は出来ませぬぞ。それにしても今日で二十日になるというのにビンビサーラの息の根が止まったという知らせがなぜ来ぬのです。おかしいとはお思いになりませんか。あの暗い石牢の中で、一切の食べ物と水を断って二十日も生きられる道理がない。どうぞ、お調べになってください。いっそ、一思いにされれば良いものを、心弱いお方だ」 |
アジャセ | (弱々しく)「私もそれをいぶかしく思っていた」 |
デーヴァダッタ | 「牢番を呼んで様子を訊いてみることです」 |
アジャセ | 「うん、そうしよう。誰かある・・・・牢番をここへ呼べ」 |
ーーー衛兵、呼びに行く | ・ |
デーヴァダッタ | 「ビンビサーラさえ亡くなればマガダ国はあなたの天下です。その時こそ、私はゴータマを打ち倒して彼の弟子どもを率いて法王の座に登るのだ」 |