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第三場

(NA)コーサラ国王、パセーナディーは釈尊が一人で殺人鬼のところへ向かわれたという知らせを聞き、急いで兵を率いて釈尊の身を守るために、ゼーターの林を抜けて、祇園精舎へ駆け付けるのでした。
ーー大王と兵士たち、花道にかかる。
大王 「世尊はいずこにおられる。世尊はご無事か?」
アーナンダ 「大王よ。何事ですか?」
大王 「おお!アーナンダどの。世尊はいずこに」
アーナンダ 「世尊は講堂におられます」
大王 「なに!講堂に。では、あのアングリマーラとかいう殺人鬼はどうなりました!」
アーナンダ 「彼も参っております」
大王 「なに!それは危ない。いざ、ものども続け!世尊をお守りするのだ!」
アーナンダ 「ああっ、大王よ。お待ち下さい。」
ーー舞台中央に釈尊と弟子たち、大王、礼拝して
大王 「ああっ、世尊よ。ご無事でありましたか」
釈尊 「パセーナディーどの。そのものものしいご様子は何ごとでございますか。マガダ国といくさでも始めようとなさるのか?」
大王 「世尊よ、戦ではありません。アングリマーラという殺人鬼を捕らえるために参ったのです」
釈尊 「大王よ、もしかのものが前非を悔いて、良い修道者となっていたらどうなされますか?」
大王 「何を仰せられます。あの凶暴な殺人鬼が道を求めて修道者になるなどと、そんなことはあり得ないことです」
ーー釈尊は微笑んで、アーナンダをかえり見る
アーナンダ 「大王よ、そのものはここに控えております。彼こそ、アングリマーラと呼ばれた男なのです」
大王 「ええーっ」
ーー兵士たち、刀に手をかけ、槍を構え、詰め寄る。・・・大王、兵士を制す
釈尊 「恐れることはない。今はごらんの通り、清らかな出家沙門となっております」
大王 「う〜ん。人に恐れられたあの者がな〜」
ーー兵士たち、顔を見合わせ
兵士A 「変われば変わるものだなあ」
兵士B 「信じられんことだ」
ーー大王、歩み寄り、合掌礼拝して
大王 「あなたは本当にあのアングリマーラか?」
アングリマーラ 「大王様。さようでございます」
大王 「うーん。不思議なことだ。いや、これは事実だ。心を改め、出家して修道者となった者を捕らえることはない。安心するがよい。それどころか、私はこれからあなたの命が終わるまで、衣や食事などを供養するであろう」
アングリマーラ 「いいえ、大王様。わたくしには、このお衣とこの鉢があります。私はそれで満足でございます」
大王 「うーん。お釈迦様は世に恐れられた荒々しい賊を何も持たずにお鎮めになった。まことに不思議なことだ。我らが多くの兵士と武器をもってしても出来なかったことを・・・・・・なんという有り難いことであろうか」
暗転
第四場

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