第五場

引き割り幕を開きホリゾントに照明。

舞踊のシーン 四人から五人の踊り、不気味な照明。チンチャーと姉、妊娠の細工のパントマイム。シルエット。
(暗転)ーーー舞台、明るくなると、下手、
門の前に報道陣、群がっている。(インター
ホンを鳴らす)
ピンポーン!、ピンポーン!、「週刊パドマですが、ゴータマさんいらっしゃいますか。
ある女性のことで、お話をうかがいたいんですが」「しゃれこうべ新聞ですが、ちょっと
お願いします」
モーションストップ。舞台半暗に変り、
花道にスポット。釈尊、アーナンダ登場。
アーナンダ、先に出て様子を見て
アーナンダ 「世尊よ、しばらくお待ちください」
釈尊 「アーナンダよ、どうした」
アーナンダ 「精舎の門前に報道陣と称する怪しげな人々がたくさん集まって、騒いでおります」
釈尊 「なにも気にすることはないではないか。アーナンダ!なぜ、そのように落ち着きがないのだ。
さっさとついてきなさい」
アーナンダ 「まあ、まあ、しばらく、しばらく、(傍白)これが気をもまずにおられようか。まったく酷い噂だ。
これはきっと何者かの策略だ。世尊と教団の我々を辱めようという陰謀に違いない」
釈尊 「これっ、なにをぶつぶつ言っているのか。お前は今、噂とか、陰謀とか言ったね。
おだやかではないねえ。その噂とはいったいどんな噂なのだ。言ってみなさい」
アーナンダ 「うわっ、聞こえましたか、こうなっては仕方ありません。お耳に入れたくはなかったのですが・・
世尊よ、驚かないで下さい。実に酷い噂です。まるで低俗な週刊誌に載るようなスキャンダルです」
釈尊 「お前は私のもとへ来て何年になる。なにも恐れるものがない私が、なにに驚くというのか。
とにかく話してみなさい」
アーナンダ 「ああ、そうでございました。仏である世尊に対したてまつり、まことに失礼な申しようでございました。
えー、実は或る女と世尊とが、ただならぬ関係であるというのです」
釈尊 「ん?」
アーナンダ 「いえっ、ですから、その〜、世尊がある女と情を通じておられるというような・・・・・」
釈尊 「はっ、はっ、はっ、はっ!・・・・なんと・・・・はっ、はっ、はっ、はっ!いやあ・・・・人というものは
実に途方もないことを考え付くものであるなあ・・・・・・はっ、はっ、はっ・・・・・」
アーナンダ 「世尊、笑い事ではありませんよ。噂は町じゅうに広まっているのです。どうでしょうか、こうなったら
竹林精舎を一度お出になって、他の町へ移られてはいかがでしょうか」
釈尊 「アーナンダよ、他の町に移って、またその町でも非難が起こったときはどうするのか?」
アーナンダ 「世尊よ、仕方ありません。更に他の町へ移ればよいと思います」
釈尊 「アーナンダよ、それでは果てしがない。私はそしりを受けたときは、じっと耐え忍び、そのそしりの
終わるのを待つのがよいと思う。アーナンダよ、仏陀は利害とか毀誉褒貶とか苦楽などに左右される
ものではない。きっといまの非難も時ならずして終わるであろう・・・・・・
とにかく今は精舎に帰るのだよ」
アーナンダ 「はい」
第六場ーーー舞台、照明上げる。
釈尊、アーナンダ、花道から舞台下手の
精舎の門のところへ。
ストップモーションが解けた報道陣が駆け寄る。
A 「あっ、ゴータマさん、ちょっと一言お願いします」
B 「ある女性との噂が世間で言われているんですが事実はどうなんですか」
C 「真相を教えてくださいよ」
D 「その女性が妊娠しているそうなんですが心当たりがおありになりますか」
E 「どうなんです」
F 「あっ、写真とりたいんで、こっち向いていただけますか」
ーーーフラッシュ、多数光る。釈尊、アーナンダ、門に急いで入る。上手よりお腹が少しめだってきたチンチャーと姉、しおらしく登場。報道陣
気づき一斉に取り込む。一同、てんでに
記者B「チンチャーさんですね。ちょっとお願いします」
記者A「チンチャーさん、これからどうされますか」
チンチャー 「どうするって、わたし、どうしていいかわかりませんの」
記者B 「そのお腹の子の父親が誰であるかはっきりさせる必要があるんじゃありませんか」
チンチャー 「そうですね。わたし、あの方の名誉のことを思うと、黙って身を隠した方がいいかと思って、
ずいぶん考えたんですけど・・・・・・・」
記者C 「あの方とは仏といわれているゴータマさんのことですね」
チンチャー 「ああ、恥ずかしい、私の口からは、とても」
「ええ、ゴータマです。私が証人になります。私はやはり男としての責任を取ってもらうべきだと
お嬢様に申し上げたんです」
一同 「ほほう・・・・で、あなたは」
「長年、お仕えした乳母です。おじょうさまはだまされておいでなんです。教えを説く身で
とんでもないことです。ご両親を亡くされてお淋しいお嬢様を、ありがたそうな言葉でたくみに
側に引き寄せて、おぼこなお嬢様をなぐさみものにしたんです。皆さん、どうか真相を
書いて下さい。世間に訴えてください。ゴータマは偽善者です。騙されてはいけませんよ。
第二、第三の被害者が出て、泣きを見る・・・・いえっ・・あの・・泣かされてはいけないと思い、
お嬢様は恥をしのんで・・・・・」
チンチャー 「ばあや、もういいの。あの方に逢いたいけれど、今日はもう帰りましょう。なんだか、気分が
悪いの」
「ああ、お嬢様。おつろうございましょう。おつろうございましょう。いずれきっと、ばあやが
精舎に乗り込んで、ゴータマに会って、きっちり話をつけて差し上げます。だんだん産み月が
近づいてくるというのに、私とたった二人で心細いこと・・・・・さあ、さあ・・・・・」
A 「実にひどい話だ」
「これが事実とすれば大変な特ダネだぞ」
C 「ねえ、ねえ、精舎に乗り込む前に、我々やテレビ局も呼んで、大々的に記者会見
とうのはどうです。世論に訴えるんです」「そうだ」「やれ!やれ!」
「皆さんがそうおっしゃって下さるので勇気付けられます。では、あらためてそのときは
連絡させていただきます。ゴータマのような卑劣な偽善者が説く邪教が広まるのを許しては
いけません。では、そのときはよろしくお願いします。さあ、お嬢様」
チンチャー、舌を出す。

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